デジタル絵本『あさごち』


「あさごち」1話

 

 

 

「外には 危険が いっぱい あるのよ、おうちに いなさい。」

 

そう言って ママは バナナを 買ってきて くれたけど

 

それも なんだか くたびれて きちゃって

 

「腐りかけの バナナなんて もういらない。」

 

って、 一人で 声に出してから

 

私は 家を 出ることに 決めた。 

 

 

 

 

 

 

 

穏やかな 春の風が 東から吹いてくる。

 

「もう絶対に、 自分の選択は 間違えて いない。」

 

そう 確信を 持って 

 

外へ 飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、 あなたって なんて 名前の 花なの?」

 

むらさき色の 花に 話しかけた。

 

「あらあら、 世間知らずの お嬢さんが やってきたわね。

 

名前? 勝手に 好きなふうに 呼びなさい。

 

でも、 調子に 乗っていると、あなた 道に 迷うわよ。」

 

「あら、素敵な 情報を ありがとう。

 

おあいにくさま

 

私、 道に迷うの 大好きなの。」

 

 

 

 

 

 



「あさごち」2話

 

 

 次に 出会ったのは  もそもそ 歩く 黒い 生き物。

 

「大変だ、大変だ。予定が 全部 狂っちまった。」

 

その 生き物は あっという間に どこかへ 行こうと するから

 

「あら、楽しそう。私も 忙しい ふりして 慌てて みようかしら。」

 

って言ったのに

 

まるで 何も 聞こえて いないかのように

 

どこかへ 走り去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何よ あの黒い 生き物!私のことを 無視して くれちゃって!

 

何で そんなに 慌てて いたのかしら。

 

もしかしたら、私に 手伝える ことだったのかも。

 

困っていたのなら、 口に出してくれなきゃ 伝わらないわよ。」

 

そんなことを 考えながら 歩いていたら、ツタに 絡まって しまった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツタから やっと 抜け出せて

 

しばらく 歩いていると、風が ふわっと 吹いてきた。

 

サワ サワと 草同士 こすれる音が あたりに 広がる。

 

思わず

 

「フゥン、フゥン、タララッタ」

 

と 意味のない 言葉で 歌いながら 踊ってみた。 

 

 

 

 

 



「あさごち」3話

 

 

すっかり 気分が 良くなって、ズンズン 歩いて いくと

 

上から 私を 見下ろすヤツ

 

「ちょっと 何 見下ろして いるのよ!

 

あなたの 奥歯 ガタ ガタ 言わせましょうか?」

 

見上げると

 

うつくしい花

 

思わず 体が のけぞった。

 

でも、

 

「フンッ!!」

 

って こんしんの 力を 込めて ふんばった。

 

「ウフフッ、きれいなブリッジね。」

 

うつくしい花はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

いっぺんに いろんな人に 会いすぎて

 

なんだか 疲れて きちゃった。

 

「そろそろ 私が いないことに ママが 気がついて、

 

奥歯 ガタ ガタ 言わせて いるかも しれない。

 

帰って あげようかな…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ムワッと 生温い 空気が 通り過ぎて

 

あたりが 急に 暗くなった。

 

「なんだろう、 胸騒ぎが するわ。」

 

不安な 気持ちが 膨らんだ。

 

 

 

 

 

 



「あさごち」4話

 

 

ボチャン、ボチャン

 

雨が 降ってきた。

 

あたり 一面 あっという間に 水びたし

 

「なんだか 世界を 大そうじ しているみたい!

 

ターリラリー、タリーラリー…」

 

私は また 意味のない 言葉で 歌いながら 踊り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨が 止み、夕暮れが 迫ってきた。

 

「どうしよう、帰り道が 分からなく なっちゃった。」

 

そう 言いながら トボ トボ 歩く私に

 

白くて 大きな 花が 覆い かぶさるように 言った。

 

「あきれたねぇ!あんた、自分が どこに いるのかも、わからんのかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は おどろいて 逃げるように その場を さり

 

迷路みたいな 花の道を グチャ グチャに 走り抜けた。

 

 

 

 

 

 



「あさごち」5話(最終話)

 

 

 

とうとう、完全に 迷子になった

 

悲しくなって 私は 泣いた。

 

「自分がすごく理不尽!!わ~ん!」

 

クスッ 

 

誰かの 笑い声が 聞こえる。

 

振り向くと 黄色い チョウが 私を 見ていた。

 

「見せ物じゃ ないのよ、見るなら 家まで 連れて いきなさいよ、わ~ん!」

 

チョウは クスクス 笑いながら、

 

私を 家まで 送ると 言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねぇ、あなたは 空を 飛んだ ことがある?

 

私はね、次に 生まれ かわったら 

 

チョウのように

 

空を 飛ぶ 生き物に なろうと 思うの。

 

だってね、それって すっごく、

 

さいっこーに、心が 弾む ことだから! 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ると、ママが待ってて

 

 この世の 終わりかって くらい 怒られた。

 

「ママったら 私がいないと 

 

奥歯 ガタ ガタ 言わせちゃうくらい 心配しちゃう。

 

しょうがないから 今は ここに いてあげる。」

 

パン パンに 腫れた まぶたが あつい。

 

私は 熟しすぎて 甘く ねっとりしている バナナに 

 

がぶりと かじりついた。

 

 

 

 

おしまい