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夏の思い出~カブトムシと甥っ子と~

夏が来れば思い出す

思い出したくもない思い出。

 

皆さん

私、やっちまいました。

自分の方が上手に出来るからって、頼んでもないのに相手の領域まで犯してしまうアレです。

この夏

小学校3年生の甥っ子がカブトムシを連れて我が家に遊びに来ていました。

自称、絵描きの私に甥っ子の母(私の2つ上の姉)が言いました。

「夏休みの自由研究でカブトムシの絵を描かせたいから、賞が取れるレベルの絵をよろしくね」

 

ムムムッ・・・

でたよ

まただよこの姉

だから、そういう下心を持ってやるもんではないんだって

ただ、この姉

実績があるんです。

多分姉が小学校3年生の頃です。

当時よく学校に消防車が来て、写生大会が開かれてました。

私の姉、その大会で金賞取りました。

よく覚えています。

画用紙いっぱいに描かれた真っ赤な消防車

乗ってないはずの運転手まで描かれていたと思います。

その絵は額縁に入れられ、10年以上家に飾られていました。

 

賞を取るポイントとして

・大きく描く

・密度を濃く描く

ということを理解した上での確信犯です。

ただ、私のかわいい甥っ子はそんな確信犯的なことをやる人間ではないので、最初自由に描かせたら

頭部がやけに小さくて、体の甲羅の部分がずんぐりと大きい絵が出来上がりました。

 

うん、自分の感じたままのカブトムシが描けてていいじゃん

 

って思ったわけです。

姉から電話が掛かってきました。

 

「絵、どうなった?」

 

「ちゃんと指示通り、縦に描いたよ。体の特徴まで説明する文章も添えてたよ。」

 

「えっ!それじゃあダメなんだって。文章は入れちゃダメなの!

もう一回描き直させて、もう鮎美が描いちゃってもいいから」

 

それじゃあダメじゃん 春風亭昇太でした。

 

じゃ、ないんだよ!

 

ダメじゃん

それ絶対やったらダメなやつじゃん。

しょうがいないので、もう1枚描くことにしました。

 

甥っ子は「カブトムシがじっとしていないから描けない」

と言ったので、

生きたカブトムシを描かないと、生き生きとしたものは描けない旨を伝えて、1本の太い棒にカブトムシをのせ、グルグルグルグル木を動かしながら動いているカブトムシを描かせました。

とても良い線でカブトムシを描き上げた甥っ子。

続いて色ぬりです。

 

この辺りで、ずっと動き回っていたカブトムシが動かなくなりました。

カブトムシもついに歩き疲れたようでした。

 

私のテンションは徐々に上がりつつありました。

 

カブトムシ同様、疲れ始めた甥っ子の気持ちを置き去りにし始めたのも、たぶんこの辺りからです。

 

甥っ子は一生懸命、水彩でカブトムシの絵に着色していきました。

 

甥っ子が塗り終わり、筆をおこうとした瞬間、私は言いました。

「ここからだよ」

 

もうダメでした

ここで私を止められる人は誰もいませんでした。

 

アクリル、色鉛筆、パステル、クレヨン

いろんな材料が頭に浮かびました。

 

アクリルがいいんじゃないかな

 

ああっ

 

でも待って

 

これは小学生の絵画コンクール

 

あまり普段使わない画材は避けた方がいいかもしれない

 

生き生きしたカブトムシを表すにはこの画材しかない

 

クレヨンだ!

 

私の中のミロコマチコ(画家・絵本作家)が爆発しました。

 

甥っ子の描いた絵にでたらめな色を付け、

「ほら、こうやっていろんな色で線を描いていくと、画面が生き生きとしてくるでしょ!」

 

もう1度言います。

 

この時点で私を止められる人は誰もいませんでした。

 

10分後、あきらかに元気のなくなった甥っ子

 

目の前には、元の水彩の色の上に塗りたくられたクレヨンの絵が出来上がっていました。

 

私はまだまだ手を入れたかったのですが、画用紙の上に描いたので、いつもみたいにアレコレ色付けていくうちに紙が破けそうになってしまい、ついでに甥っ子の気持ちも破れそうになってしまい、もう筆を置きました。

 

数十分後、甥っ子に私は言いました。

「最後までちゃんと仕上げて偉かったね」

 

甥っ子は言いました。

「水彩で終わりにしたかった」

 

以上がこの夏

私が一人のアーティストを抹殺した出来事でした。